題名 :『丹下左膳餘話百萬両の壺』

登録日時 :03/06/09 21:48

1935年 日活 監督:山中貞雄 モノクロ 91分

現存する山中貞雄の監督作品3本のうちの一作。名作とされる。


柳生藩主、柳生対馬守(阪東勝太郎)の弟、源三郎(沢村国太郎)が江戸の剣術道場に婿に行ってから数ヶ月。藩主は柳生家に伝わる古ぼけた茶壷・「こけ猿の壷」を持たせたのだが、この壷には財宝100万両の隠し場所を示す地図が塗りこまれていることがわかった。 しかし、源三郎の妻萩野(花井蘭子)はすでに壷を屑屋に売り払ってしまっていた。今は屑屋から長屋の子供、安吉(宗春太郎)が壷をもらい、金魚鉢に使っている。柳生藩と源三郎はそれぞれ壷の行き先を探索する。

安吉の父親、七兵衛(清川荘司)は身分を大店の主人と偽って、矢場の美人店員お久(深水藤子)目当てに毎晩遊びにきていたが、ある日ふたりのヤクザともめてしまった。そのとき隻眼・隻腕の浪人、丹下左膳(大河内伝次郎)が店の奥から現れて、激しい恫喝でヤクザを追っ払った。いやあ、大河内伝次郎、おっかねえす。刀を鞘ごと口でくわえ、グルリンと首を回しながら左手一本で抜刀する。あれはヤクザもビビる。 左膳は店の女主人のお藤(喜代三)とできていて、矢場の用心棒として居候していた。さっきのヤクザが仕返しに来るかもしれないから、とお藤に頼まれ、左膳は七兵衛を家まで送ることになったが、本当の身分がバレるのをおそれた七兵衛は、家に着く前に左膳と別れ、案の定ヤクザに刺し殺されてしまった。
左膳とお藤は、七兵衛の家を探して長屋に行き、孤児となった安吉を見つけるが、父親が死んだことを言い出せない。結局安吉を店に連れて来て飯を食わせて、それからどうにか左膳が、父の死を告げた。

一方、壷を探して江戸を毎日歩き回っていた源三郎は、矢場のお久に一目惚れし、壷探しはそっちのけで毎日矢場に遊びに来るようになった。そのことが女房にバレ、道場のある自宅から一歩も出させてもらえなくなってしまった。

ある日、寺子屋の友達達とメンコで遊んでいた安吉は、六両の大判を泥棒に取られてしまった。大判の持ち主である商人に明日までに六両を返さなくてはならない。左膳とお藤が言い争いをしていると、「けんかをしないでください」と習い始めたばかりの字で置手紙を残し、安吉が家出してしまった。左膳は必死になって町を走り回り、ようやく安吉を見つけて連れ帰った。 左膳は六両を稼ぐため、丁半博打に出かけたが、ことごとく目を外し、負けては唸り声をあげるばかり。お藤の着物を質に入れて用立てた元金をあっという間にスッてしまった。その帰り道を七兵衛殺害犯のヤクザが襲ってきた。左膳は同行していた安吉に目をつぶって十まで数えろ、と言い、その間にヤクザを斬った。

翌日、今度は道場破りで稼ごうと町道場に出かけた左膳。門弟達を次々と破った後に現れた道場主は、源三郎だった。六両を条件にわざと左膳は負けた。 道場主として、また夫として、大いに権威を回復した源三郎は、再び壷探しと称して矢場に遊びにくるようになった。実は安吉の金魚鉢が百万両の壷であることも、もうわかっていたのだが、源三郎は左膳に預かっておいてくれ、と言う。左膳が理由を尋ねると、壷が見つかったら浮気ができなくなる、と源三郎は笑うのだった。(完)


まずは、演出の妙味に感嘆する。 ある人物が「自分は絶対にXXしない」と言い張るシーンのあとに、本人がしっかりXXしているカットをつなぐ、ということを何度もやっているのだが、これがとても効果的で面白い。 大河内伝次郎の殺陣は、異様だ。道場で門弟達を次々と叩きのめすところは、型はむちゃくちゃだが飛んだり跳ねたりという野生動物のような、エネルギッシュな動き。刀は右の腰にさしている。
音楽は鳴りっぱなしで、ちょっとうるさいが、これはサイレントからトーキーに変わって数年の頃の映画には、洋画・邦画を問わずよくあること。

個人的には源三郎の軽さが、どうも好きになれない。軽妙というより軽薄で不誠実な感じを受ける。別段女房がそんなに嫌な女にも見えないのに、なんでよその女にこんなにウツツを抜かすのであろうか。そこに説得力を欠くように思われるのだが、現代の「不倫」に対する感覚と、戦前の世間一般の「浮気」に対する感覚は、少し違うのかもしれない。
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