題名 :『賞金首 一瞬八人斬り』 

登録日時 :04/04/04 03:52

1972年 東映 監督:小沢茂弘 カラー 88分

若山富三郎演じる錣市兵衛が活躍する、ウェスタン時代劇シリーズ。 ありえないことが連発する奇天烈な怪作で、主人公以外ほとんど死んでしまう という身も蓋もないドラマ展開に、徹底的なマカロニ・ウェスタン風味の演出 トーン。でも作り手たちが「これが面白い」「これがカッコいい」と思い込ん でいるところの感覚が、かなりズレていると思う。




甲州黒戸金山で採掘された黄金200貫が、江戸に運ぶ途中、山賊の伊那山岳党 に奪われた。運搬隊は皆殺しになったが、一人の人夫だけは生き延び、黄金を 一個(卵ぐらいの大きさ)飲み込んで逃げた。

この男が江戸に来て、腹が痛くなって運び込まれたのは、小石川の私設施療院 だった。ここを経営する蘭法医の錣市兵衛(若山富三郎)は、男の胃に石の様 な硬い物がある、このままでは胃が裂けてオダブツだ、と診立て、開腹手術を 行なうことにした。

しかし、麻酔や輸血はどうするのか?っつうと麻酔は鍼麻酔。市兵衛が男のひ ざや手首のツボに鍼を打つと、男はさっきまでの苦しみようが嘘のようにおと なしくなった。ウソ!と言いたくなるぐらいよく利いた。では輸血は? ...やらない。衛生管理も、やらない。市兵衛が男の腹をメスで切ると大量の 血液が溢れて、見ていた助手役の娘が気を失って倒れた。市兵衛は男の腹に素 手の手を突っ込んで、黄金を取り出した。ってあのさあ、...死んじゃうぞ。

一方、幕府は奪われた黄金の行方を必死に探していたが、皆目見つけ出せな かった。そこで老中堀田(内田朝雄)と大目付跡部(藤岡重慶)は黄金の奪還 を市兵衛に依頼した。市兵衛は施療院の経営費用をまかなうため、賞金稼ぎの 副業をしていた。期限は5日後の午の刻。そのとき皆既日食が起きることを堀 田も市兵衛も天文学者でもないのに、知っていた。これは日食を利用したト リックみたいなものがあると思ったが、別にそんなもんはなかった。

髪がパンチパーマで、口髭を蓄えた市兵衛が、賞金稼ぎの衣装に着替えて、馬 に跨ると、なんかメキシコ風だ。レンガ色の赤茶けたズボン、皮製っぽい チョッキを着ていて、ソンブレロみたいな大きな陣笠を首から背中に掛けてい る。馬の蔵にはガンホルダーが付いていて、そこにショットガンみたいな銃を 収めている。江戸時代の日本にはありえねー格好だ。BGMもメックス風。

市兵衛が金山の麓の台ヶ原宿に来てみると、伊那山岳党の首領、夜叉狼(今井 健二)が代官所につかまっているという。市兵衛は代官所に乗り込み、役人ど もを叩きのめして、ワイルドすぎてインディアンみたいな夜叉狼の身柄を奪還 した。

しかし夜叉狼を連れて逃走する市兵衛の前に、短銃を持った黒服の男(天知 茂)が現れ、夜叉狼を馬で連れ去ってしまった。市兵衛はその場でスコープ付 きのライフル銃(?)を組み立て、信じられないぐらい遠くから撃った。弾は 夜叉狼に命中し、夜叉狼は落馬。黒服の男はそのまま馬で逃げてしまった。

瀕死の夜叉狼から、市兵衛は黄金のありかを聞き出そうとしたが、夜叉狼は子 分の音吉(潮路章)の裏切りで既に黄金は奪われてしまった、と打ち明ける。 お紋という稀代の悪女にたぶらかされて、音吉は夜叉狼の潜伏場所を代官所に タレ込んだというのだ。そしてお紋のことを金だけが目当ての欲の深い女、と 罵り、「元々は...」と言った所で夜叉狼は事切れた。 「元々は」何だったのか?実はそれは映画を最後まで見ても、さっぱりわから ないのだった。

そこに夜叉狼の妹、飛び天童(加藤小夜子)が、「きさま、兄じゃを殺した な?」と襲い掛かってくる。天童は名前の通りよく飛ぶ、ピチピチのワイルド な「あずみ」みたいな衣装の小娘なのだが、市兵衛は「違う!俺が殺したので はない!」と攻撃を受け流しながら必死に言い訳する。え?あんたじゃん?あ んたが殺したんじゃん?とわけがわからなくなる。

飛び天童は去ったが、知的障害者で聾唖の乞食(遠藤辰雄)が市兵衛について くるようになる。こいつは一体ナニモンじゃい?顔は垢で黒く汚れ、髪はカー リー風の茫髪、着物はボロボロ。宿場ではこいつのことを「死神」と呼んでい る。こいつに関わって死んだ奴は数知れない、というのだ。しかし、遠藤辰雄 が、こんな役やるかね?もんのすごい怪演なのだが。

市兵衛が宿場に戻ると、代官所を襲撃した罪で、100両の賞金首に自分がなっ ていた。行き倒れの老人を町の食堂に運んで治療していると、店員(江波多寛 児)が襲ってきたが、市兵衛は仕込み杖を抜いて店員の腕をぶった切り、もう 一人の店員が拳銃で狙ったので、刀を投げつけて殺した。

「素晴らしい腕ですな」とひげもじゃの浪人(内藤武敏)が、声を掛けてく る。能天気で口数が多くてお調子者といったイメージだが、カタブツ役の多い 内藤武敏がこういう役をやるのも珍しい。しかし「日食の日まであと二日です な」と言うからには、こいつは幕府の隠密だろう。

実はこの食堂は、件の悪女お紋(川村真樹)が経営していた。お紋を暴力的に 叩きのめした上、セックスで支配した市兵衛は、黄金のありかを訊く。こうい う展開をカッコいいと思っている作り手のセンスは、非常に問題あると思うの だが、音吉はすでに殺害され、以前から愛人関係にあった人足頭の棺桶辰(大 木実)の元に黄金はあるとお紋は打ち明けた。

市兵衛はお紋と死神を連れて、金山に乗り込む。途中、天童が襲ってきたが、 市兵衛はお紋が拳銃で天童を撃とうとするのを止め、「俺が仇でないと納得す るまで、何度でも来い」と退けた。いや、あんた、仇でしょ?夜叉狼を撃ち殺 したのはあんたでしょ?この辺、なんかおかしい。 天童は黒服の男の仲間になっているのだが、黒服の男は市兵衛のことを、「あ いつは幕府の犬だ。血も涙もない男だ」と天童に吹き込む。実はこの男、尾州 徳川家の隠密で幕府転覆のために、黄金を奪おうとしている血も涙もない男な のである。

金山で市兵衛の前に現れた棺桶辰は、家庭では子煩悩なマイホーム・パパだっ た。しかし一歩家を出ると、冷酷な男に変身。用心棒役を願い出た市兵衛に、 山抜けを図った人足が金塊を飲み込んでいるから、腹から金塊を取り出せ、と 命令する。この手術は既に経験済みの市兵衛は、メスを取り出すと麻酔もかけ ずに人足の腹を裂いて金塊を5.6個取り出してみせた。ありえねーんだが。

しかし辰は信用しない。廃坑に忍び込んだお紋と市兵衛を落とし穴に落とし、 拳銃を取り出してお紋を穴の上から撃ち殺した。しかし、市兵衛を撃たないの はなぜなんだろうか?こういうところが都合よすぎる。市兵衛は爆薬と死神の サポートを得て、脱出した上、黄金を奪還した。

その間に黒服の男は、血も涙もない男ぶりを爆発させて、囮役の天童が女に飢 えた男たちに集団レイプされるのをほっといて、棺桶辰の息子を誘拐した。そ して息子を助けてほしくば、黄金を渡せ、と辰に迫る。 そこに現れた市兵衛が引き連れた死神が引く(最近話題の)大八車には3つの 棺桶があり、2つには黄金、1つにはお紋の遺体が収められていた。ほしけ りゃ子供を解放して持ってけ、と市兵衛は言ったが、「その手には乗らぬ」と 黒服の男は別の場所での引渡しを要求した。「その手」って何なんだろう?、 こういうところがさっぱりわからないのだ。

ひげもじゃの幕府隠密が引き止めるのを振り切って、約束の場所に市兵衛が行 くと、黒服の男のほかに尾州藩士(田中浩など)がいて、黄金を積み替えると 馬で山を降りて行った。こういうところもかなり支離滅裂だ。黄金の質量がめ まぐるしく変わっている。最初に運搬隊がそれを運ぶシーンは、大げさな隊商 を編成し非常に大量にあるというイメージだったのが、死神の棺桶に移すとせ いぜい棺桶二つ分で大八車で人間一人で運搬できてしまう。そして今度は馬 5,6頭に分散してはいるものの、馬の軽やかな走り具合からは、黄金はひど く目減りしてしまったようだ。 いくらウェスタン風味に凝ってみても、こういうディテイルがおろそかなとこ ろが、メタクソにダメ。200貫匁はいかに死神が怪力でも、人間一人で運べる 重量ではない。

そんな私の幻滅をよそに、市兵衛と黒服の男の対決が始まった。黒服の男の短 銃を手裏剣で封鎖し、市兵衛は剣の勝負に持ち込む。若山はトンボ連発のアク ロバティックなアクションで頑張る。突然屋根の上から天童が黒服の男に襲い 掛かる。「兄じゃを殺したのはお前だな?」 いや違うよ、あんたの兄さんを殺したのは市兵衛だよ、と観客が教える間もな く、黒服の男は天童を斬ると馬で逃げ出した。なんで逃げるのか全然わからな かった。逃げる理由がない。でもここまで支離滅裂だともうどうでもいいや。 人質の子供は死神が助け出した。

市兵衛は馬で尾州藩士や黒服の男を追う。峠道を外れて尾根沿いに山を下った 市兵衛は、例によってライフル銃(?)を組み立てると、黄金を積んだ馬を疾 走させる尾州藩士たちを次々と狙撃して倒す。ありえねーよな。いわゆる普通 のライフル銃には、弾道を安定させるためのスパイラル状の溝が銃身の内側に 掘り込まれている。しかし市兵衛の使う銃は銃身が短くて、とても遠距離の狙 撃に使えるとは思えない。スコープをつけたから狙撃銃、という発想の強引さ と都合よさ、重力や風の影響を試し撃ちの調整なしでは克服できない、という 常識を無視した展開に思わず失笑。

田中浩が銃で撃たれたのに、市兵衛に向かってきて0.3秒で即殺。若山は座 頭市まがいの仕込み杖を、抜いて斬って収めるまでがあまりに早い。コマ落と しだろうな。

日食が始まって夕焼けのようにスクリーンが赤くなる中、黒服の男と市兵衛の 対決が始まる。空に飛んで黒服の男の背後を取った市兵衛は、黒服の男を刺し 殺した。そしたら日食が終わった。

その間にひげもじゃ浪人・野呂陣内はひげを剃って代官風の格好になり、口調 も全然変わって、手勢を引き連れて金山に現れると、棺桶辰とその身内を皆殺 しにした。市兵衛が助けた子供までも殺された。

遅ればせにそこに姿を現した市兵衛は、怒りの表情も激しく、野呂たちを壊滅 させる。仕込み杖での逆手斬りは、ムチャクチャ早い。まさに一瞬八人斬り。 そして死神を連れて、江戸に向かう。(完)




基本的にダメだけどテンションは高くて、カルト映画としてそれなり。 監督の小沢茂弘は仁侠映画の情の深い演出で名を上げた人だが、今は京都で占い師をしているとか。 きっとその占い、当たんねーぞ。
--------------------------------------------------------------------------------

時代劇映画感想文集トップへ