題名 :『家光と彦左と一心太助』

登録日時 :04/03/01 00:50

1961年 東映 監督:沢島忠 カラー 93分

これはむちゃくちゃ面白い!東映時代劇映画がこの世にあって本当によかったとしみじみ思い知る大傑作だ。沢島監督の演出基本トーンは明るく明朗なのに人物たちがみんな、やたらと泣く。 正直なところ過剰に泣き過ぎだし、何故泣くのか首を捻るところもあるのだが、 これでもか、これでもかも攻めてくる「泣き」に、思わずもらい泣きしてし まったぞ。


元和九年、世は徳川二代将軍の治世に置かれていた。 その年の元旦、恒例の「将軍挨拶」の儀式が執り行われていた。家臣全員が将軍と 「おめでとうござる」と挨拶を交わすのである。
二代将軍秀忠(北龍二)とともに、世継ぎの家光(中村錦之助)は大上座に座っていた。挨拶の順番は身分の序列に従っている。有力大名や幕閣よりも大分後ろの方、廊下の外れあたりで家光の腹違いの弟、忠長(中村賀津雄) は順番を待っていた。拝謁までは数刻かかるだろう。さらにそのはるか後ろ、江戸城の庭で順番を待つ大久保彦左衛門(進藤英太郎)は思わず居眠り。旗本とはいえど、たかだか3000石の身分としては、まあ順当な順番だった。

ようやく彦左衛門が家光に拝謁して、家光と忠長が睦まじかった頃の思い出を 泣きながら話したので、家光は久しぶりに忠長と酒を飲み交わしたいと言い 出す。ところが、呼ばれた忠長が家光のところに向かう途中、家光の酒を飲んだ毒見役が死んだ。毒見役は自ら酒に毒を盛ったのだが、良心の呵責のため体を張って暗殺を防いだのだった。
実は、忠長を次期将軍につけようとする一味がいた。忠長の生母・北の方(風見章子)、幕府重役本多上野介(薄田研二)、酒井阿波守(徳大寺伸)らである。家光が竹千代と名乗っていた子供の頃、あまりに粗暴な竹千代君は将軍にふさわしくないとして、彼らは国松君・今の忠長を世継ぎに据えようとし、彦左衛門が切腹をかけてそれを覆した過去があった。今、再び彼らが工作を始め たのだ。

彦左衛門はあせる。どうやって家光を守ろうかと柳生但馬守(坂東蓑助)と自宅で相談しているところに、出入りの魚屋・太助(中村錦之助)が新年の挨拶にやって来る。正月の晴れ着のキチンとした着物を着た太助が家光に瓜二つなことを発見した彦左衛門は、家光と太助の入れ替えを思いつく。太助を影武者に仕立てようというのだ。それを太助に頼むとき、彦左衛門は泣く。家光の代わりに死んでくれという残酷な頼みを、かわいがっている太助に頼まねばならない窮状をかみ締めて泣く。しかし太助は男だ。親分の頼みを潔く引き受けた。恋女房のお仲(北沢典子)のことは気がかりだったが。
彦左衛門の用人が、上質の酒を太助にふるまってくれた。最初は喜んだ太助だったが、「切れ者の本多は磐石の家光殺害計画を張り巡らしていて、太助は間違いなく殺される」と使用人が泣くので、太助も覚悟を決めた。

ところが当の家光は「ならぬ!」とこの作戦に血相を変えて大声で反対した。太助を犠牲にしてまでも生き延びたくはないというのだ。彦左衛門、但馬守、家光の乳母の春日の局(松浦築枝)らが、天下のためと説得してようやく家光を納得させた。
江戸城からの抜け道をくぐって大久保邸にやってきた家光は、魚屋の半纏に着 替え、太助が「一心如鏡」の刺青をフォローして、二人は入れ替わった。なにせ急ごしらえだから、二人とも将軍・魚屋にはなりきれていない。そこをネタ元にして、ここからギャグ世界が展開される。これが実にすばらしい。

家光と太助は周囲の人たちに摺り替わりを見抜かれないよう、病気で一時的に頭がおかしくなったフリをすることにした。

江戸城に入った太助は、長袴で歩くのに苦労していた。彦左衛門は転んだ太助を起こそうとして、太助の手が魚臭いのに気づいた。これで正体がバレてはまずい。そこで、転んだときには誰かが駆け寄ろうとするから、そのときは「捨て置け」と言うよう彦左衛門は教えた。

忠長派に鳥居土佐守(山形勲)がヒットマンとして加わった。鳥居は家光に近づくことができる大名格の家臣でありながら、天下無双の剣の腕を持つ。忠長を将軍に就けるためなら命を懸けようと鳥居は熱く語った。
江戸城内の廊下の角の陰で鳥居は刀の鯉口を外し、家光が来るのを待っている。そ れを知らずに長袴でぎこちなく歩を進める太助。何が起こるか、と観客も固唾を呑む。角を曲がろうとして、太助はいきなり盛大にコケてしまった!裂帛の気合とともに斬りつけようとしていた鳥居は、完全にタイミングを外され、その上太助が「ステオケェ!」と喉も裂けよと必死に叫んだので、近寄ることもできなかった。ポカンと呆けた鳥居の顔に爆笑。

一方、家光は魚屋姿になって、太助の長屋に帰った。護衛役として柳生十兵衛 (平幹二朗)が連れ添ったが、なぜか十兵衛も魚屋の半纏をまとう。町人言葉 を自在に操るイナセ野郎になってしまった十兵衛は、先ほどまでのいかめしい 武士姿からのギャップが面白い。護衛役というより家光のトンチンカンな言動 をフォローする役目。
大家をはじめ長屋の人たちは、太助が無事帰ってきたと大喜び。しかし言葉遣いが改まらないので、十兵衛は「太助さんは『殿様病』にかかってしまった」 とフォローする。

家光は太助として魚河岸に仕事に行く。と言っても天秤棒を担いでいるのは十兵衛で家光は胸を張って、殿様歩き。この様子だけでもかなり笑える。 魚河岸の仲間たちも太助の職場復帰をわがことのように喜んだが、そこに地回りのやくざ(沢村宗十郎が頭目)が因縁をつけにやってきた。彼らは奉行とつながっていて「お奉行様が怖くねえのか?」とすごむが、家光は「別に怖いとは思わぬ」と、天秤棒を木刀替わりにやくざ連中を叩きのめして、魚河岸仲間の喝采を浴びた。

江戸城で、太助は暗殺をおとぼけで無意識に躱わし、家光と恋仲の女中(桜町弘子)が迫ってくるのを必死に躱わし、おまけに現役将軍秀忠が病に伏したので、将軍代行となって訳のわからない評議で奮闘していた。しかしやはり様子がおかしいので、家光が狂ってしまったと思い込んだ本多は、将軍が年始に行なう行事・経書御講釈事始を代行役の家光にやらせ、大勢に役立たずと周知させて、廃嫡させようとする。字の読めない太助、ピンチ!

長屋の家光は「殿様病」を心配した子供に薬代わりの焼きミミズを飲まされたり、浮気を疑った太助の女房にスリコギで殴られたりしながら、長屋や河岸の人たち、行商のお客さんたちと楽しくやっていた。太助がいかにみんなに愛されている か、家光にはよくわかった。しかし太助のピンチで、迎えの駕籠が来た。

二人は一日だけ、入れ替わった。家光は江戸城で経書講義を無事に務めて本多の策略を打ち破り、太助はお仲とつかの間の再会を味わった。再び家光と入れ替わって江戸城に向かう太助は、死を覚悟していた。もう二度とお仲には会えないだろう。

江戸城に戻った太助は、忠長から二人きりで話したいと呼び出しを受ける。 二人きりのとき自分が殺されれば、忠長の逆心を明らかにできると考えた太助は護衛もつけず、覚悟を決めて忠長と二人きりになった。
ところが忠長は、兄を心底から慕い敬っていて将軍になる気など全くないのだ が、実母が一味に加わっているために、家光暗殺の陰謀を表沙汰にできず苦しんでいる、と泣きながら言う。 そして平伏して着物を交換してくれと頼んだ。本多一味は、最近家光がお忍びで夜間に城を抜け出し大久保邸に通っていることをかぎつけていて、そこを暗殺しようとしている。夜目には顔がわからず、家光の着物を着た自分が死ねば、母も考えを変えるだろうというのだ。
こう言いながらも、忠長はさめざめと泣き続ける。キャメラはずっと忠長の泣き顔を撮っているのだが、ここで太助の顔に映像が切り替わる。すると... さめざめどころではない。眼球が流れ落ちてしまいそうな大量の涙で、頬をド ロドロにして、太助は泣いていた。忠長の本心を知った太助は、自分は家光ではないと正体を明かし、本物の家光に会わせるため、忠長を連れて江戸城を抜け出す。

一方、鉢巻を締めた魚屋姿の徳川家光は、天秤棒を担いだ柳生十兵衛と二人で、子供たちのけんかに出くわす。大勢で二人をいじめているようなので、十兵衛がやめさせた。二人で悪ガキ連中相手に戦っていたのは、家光にミミズを飲ませた巳之吉とその腹違いの弟の次郎松だった。 巳之吉の家では父(阿部九州男)も後妻(赤木春江)も、二人の子である次郎松ばかりかわいがり、先妻の産んだ巳之吉をいじめていた。それでも巳之吉は次郎松が可愛くてたまらなくて、弟の悪口を言った連中に無謀に挑んだのだった。次郎松もそんな兄を心から慕っている。 仲良く手をつないで夕焼けの家路につく異母兄弟の姿をじっと見て、家光は忠長と心を開いて話そうと決意する。

その夜、本多一派の暗殺隊が、家光を狙って大久保邸を襲った。 暗殺隊の先頭に立つ鳥居は、家光とともに忠長が現れたので驚く。そして忠長に切り殺されてしまった。忠長と家光はすでに本心を語り合い、打ち解けて強い信頼関係を結んでいた。酒井の号令で暗殺隊は一斉に家光たちに襲い掛かってきたが、家光・忠長の徳川兄弟、十兵衛・又十郎の柳生兄弟ともめちゃくちゃ強くって、大暴れ。大久保彦左衛門も活躍。台所では太助がやくざたちと大乱闘。 こういう集団立ち回りシーンは、沢島監督の得意な分野で、余裕のあるキャメラの動かし方と、そのフレーム内に人物たちが自在に出入りするバランスのよさは、さすがというか、神業レベル。

こうして家光暗殺計画は回避され、家光は太助やお仲に礼を言った。太助夫婦は泣きながらその言葉を受けたが、なんで泣くのかわからないぞ?

魚屋に戻った太助が、快活に働くシーンで(完)

笑いあり涙あり、胸のすくチャンバラあり。是非見てください。

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