題名 :『女左膳 濡れ燕片手斬り』

登録日時 :02/09/07 20:22

1969年 大映京都 安田公義監督 カラー 71分

このタイトルを見て「まさか、丹下左膳の女性版ではあるまい」、と思うのは 甘い!

『座頭市』『めくらのお市』がいたように、『丹下左膳』にも女性版があったのだ。しかもあまりに丹下左膳そのものだった。しかし、女優は顔が命であった時 代に、大きな傷跡で片目は潰れ、右腕も欠損し、劇中で「化け物」と連呼される役を引き受けたこの人の勇気は、尊敬されてしかるべきだろう。
この人の名は安田道代。現在は大楠姓を名乗っているが、ときどき変な役を演 じた。その最たるものは、半陰陽の短距離ランナーを演じた『セックスチェック・第二の性』であろう。トンデモなさ加減がとどまるところを知らない、恐 るべき増村監督の映画であった。あれに較べれば女左膳など、取るに足らぬ程度のものかもしれない。

実際の内容の方は、意外や全然ゲテモノではなくて、しっかりした活劇映画に 仕上がっていた。丹下左膳の持ち味である豪快さも、うまく演出されている。




江戸市中を夜中に追われる女、お光(三木本賀代)を着流し姿の女剣士、お錦 (安田道代)が助けた。お錦は隻眼・隻腕であることから、「女左膳」の異名 を取る示現流の達人だった。
お光は商家の娘で、法成寺という大きなお寺で、女好きの住職が作った秘密の ハーレムから逃げて来たのだと言う。お光の実家に行ってみると、お光の両親を始め店の者は皆殺しになっていたので、お錦はお光を自分の家に匿う。お錦がお光に親切なのには、わけがあった。

お錦もかつて同じように両親を殺された過去を持っていた。父親の森作左衛門 は、大名の青山大膳太夫(小池朝夫)に仕えていたが、所有する名刀「濡れ 燕」を刀マニアの主君に渡さなかったため、妻子ともども無残に斬り殺され た。使用人の五助が、虫の息だったお錦と「濡れ燕」を持って 江戸に逃げてきて今日に至っている。お錦の右目と右腕は、そのとき失ったものだ。今,お錦が使っている刀は、もちろん名刀「濡れ燕」。

法成寺の住職(沢村宗之助)は、大奥に送り込んだ娘が将軍の寵愛を得て権力を手中にし、 勘定奉行の寺門河内守(神田隆)と組んで、ハーレムを作り、やりたい放題にやっていたが世間にバレてはまずいので 逃げたお光の口を塞ごうと、ヤクザの新目乃一家を使って、お光を探さ せる。自ら新目乃一家の賭場に殴り込んだお錦は、そこで大暴れした帰り道、青山の 命令で「濡れ燕」を探している真面目な武士、岩井栄三郎(本郷功次郎)と戦 うハメになる。そこに現れた謎の浪人(長戸勇)が二人の戦いを止める。

法成寺では好色な住職が、愛人(毛利郁子)とヤッテいた。それを階上の女達に見せつける、という変態ぶり。階上の女達は興奮して、レズ行為を始めたりするが、一人の女が突然高笑いする。お錦だった。お錦は住職を「売僧!」と 罵り、斬りかかるが逃げられてしまう。

お錦の留守の間に、新目乃一家がお錦の住処を見つけて襲い、一家の用心棒の浪人達に五助が殺されてしまった。遅まきに帰ってきたお錦の怒りが爆発し、白い着流しを返り血で真っ赤に染めながら、浪人達を皆殺しにする。しかし育ての親を殺された悲しみは、おさまらない。お錦の左目に涙があふれて、暖かく左 頬をつたう。カメラは左から傷のないお錦の横顔を追う。とても美しいシーンだ。

お錦と仲間が江戸市中にバラ撒いた怪文書がきっかけとなって、勘定奉行は失職、蟄居となる。法成寺住職は罪を勘定奉行一人に負わせ、生き延びる。そう して新しいパートナーとして、お錦の仇である大名、青山大膳太夫と組むこと にした。青山の屋敷で住職が見初めた美しい女中、みさお(丘夏子)は栄三郎の妹だっ たが、住職に貢ぎ物として送られることになる。栄三郎は「濡れ燕」の入手に 手間取った不忠者として、家中から追われる身となってしまった。
新目乃一家を親分(小松方正)まで全員皆殺しにしたお錦の所に、栄三郎が やってきて、遠い旅に出る、と別れの挨拶をする。その様子がただならぬこと に気付き、栄三郎の後を追ったお錦は青山家中の武士たちと切り結ぶ栄三郎を見付け、あとを引き受けて栄三郎を法成寺に向かわせる。

妹を売僧の毒牙から救出するため、栄三郎が法成寺にかけつけると、たまたまそこで住職と密会していた青山と配下の手勢が襲いかかってきた。住職はみさおをつれて秘密の隠し部屋に必死に逃げ込むが、そこにはお錦が待ち構えていて、住職を討つ。
さらにお錦は栄三郎に助太刀し、二人は多勢相手の大立ち回り。遂に両親の仇、青山を追い詰めたお錦が斬りかかろうとしたとき、幕府の大目付が入って きて場を鎮める。大目付を誘導した謎の浪人の正体は、観客の予想通り大目付配下の隠密だった。

栄三郎は刀を捨てて武士を辞める決意をする。お錦は「濡れ燕」を持って江戸 を離れる。(終)




安田道代はキップのいい台詞回し、華がある芝居、それに痛快な殺陣が素晴ら しい。左腕一本なので、刀を抜くときは鞘を咥えてキッと相手をに らむ。これが抜群にカッコいい。刀を抜いてからも足腰のしっかりした力強い 殺陣で、動きのキレ、スピードとも申し分ない。大の男が両手で撃ちこんでき た剣を、片手で受け止めて互角なのも、不自然さを感じさせない。映画中で 100人ぐらいは斬っている。「ヒロイン・アクション」って最近『バイオハ ザード』とか人気あるけど、安田道代だってかなりのものよ、ほんと。

五助の孫の子役がいつもお錦につきまとう。「子供を連れたヒーロー・ヒロイ ン」って、時代劇ではある種の定型で、「鞍馬天狗」「宮本武蔵」「子連れ狼」とか、いっぱいあるんだけど、この映画の場合は必然性が感じられず、ちょっと余計な気がする。

「蛇女優」毛利郁子が出てたけど、特に蛇は使わなかった。この人の魅力と数 奇な運命については、いつかじっくり語ってみたい。
--------------------------------------------------------------------------------

時代劇映画感想文集トップへ