題名 :『めくらのお市 地獄肌』

登録日時 :02/06/16 00:57

1969年 製作:京都映画 配給:松竹 監督:松田定次 原作:棚下照生
『めくらのお市 地獄肌』が正式タイトル。カラー 約80分

今では信じられないタイトルだが、もともとはTVの連続ドラマだった。一家 団欒のお茶の間に、毎週月曜7:00になると、このタイトルが流れていた わけだ。原作はコミックだが、もちろん『座頭市』のパクリ。差別表現に鈍 感な時代であり、著作権にもやかましくない時代だった。安保で日本中が沸 騰し、反権力的なアウトローがカッコイイとされた時代でもある。




ある宿場町に25両の賞金首の侍(中丸忠雄)がやって来た。町のゴロツキ達 (玉川良一など)が賞金目当てに侍を狙ったが、あえなく返り討ち。凄腕の 侍を仕留めたのは、盲目の女賞金稼ぎ、お市(松山容子)だった。お市はみなしごだという少女、お京を連れていたが、実はお京は大店の家出 少女だった。それに目をつけた女がいた。お炎というこの女(松岡きっこ)は、背中に彫った蛇の刺青と、女の髪で編 み上げたムチで、町のゴロツキ達を子分にし、お京の父親、越後屋から金を 騙し取ろうとした。しかしゴロツキ達が裏切ったため、お炎の企みは失敗に 終わり、お市は嫌がるお京を親元に返す。

一人になったお市が飲み屋の女将(扇ひろ子)と、「幸せってなんでしょ う?」とか二人で語り合っていると、お炎が勝負に現れた。人気のない砂場で、「めくらのお市」vs「黒髪のお炎」の対決が始まった。 お炎のムチをかいくぐって、お市はお炎を押し倒し、お炎の喉元に刃先を突 きつけた。勝負あり。しかし命までは奪わずに去ろうとするお市に、お炎はふところからマムシを 取り出して投げつける。一匹目をかわしたお市だったが、二匹目、三匹目... と「マムシ攻撃」は続く。ついにお市は腕を噛まれ、倒れた。高笑いして、 お炎は去る。

意識を失ったお市は、なぜか農村で百姓達に発見された。近くの湖で漁をす る若い漁師、茂作(入川保則)が看病して、お市は全快した。茂作の純朴で 誠実な人柄に打たれたお市は、仕込杖を封印して、茂作と夫婦になろうと決 めた。しかし幸せへの道は遠い。

この村は代官所に知られないように、米を隠していた。いわば脱税。それに 目をつけた町のヤクザ、文藏(安部徹)一家の連中(清水紘治など)がやっ てきては、隠し米を強奪していく。百姓達は代官所に訴えることもできず、 困っていた。彼らの頼りは、なぜかこの村を気に入って住み着いている、浪 人(近衛十四郎)だけだった。浪人は「先生」と呼ばれているが、剣の達 人。先生がいるので、文藏も迂闊な手出しは差し控えていた。

文藏の元にお炎がやってくる。二人は兄妹だった。雇い入れた三人の刺客と ともに、お炎はお市を襲う。仕込杖の封印を解き、お市は三人の刺客と戦 う。特に刺客の一人の唐人は強かったが、なんとか三人とも倒した。お炎は マムシも投げず、捨て台詞を残して姿を消した。お市は再び仕込杖を封印して、ついに茂作と祝言をあげ、村人や先生の祝福 を受けた。それでも幸せへの道は遠い。

文藏とお炎は、新たな作戦を練る。先生とお市を噛み合わせようというの だ。お炎は茂作を博場に連れこみ、大負けさせた。50両が返せないなら、 お前の女房にある男を斬らせろ。その男の名は文藏が直に伝えるから、明日 女房に来させろ。帰ってきた茂作は、そのことをお市に言えなかったが、文藏一家の使いが確 認に家まで来たので、お市は真相を知る。その夜、お市から誘って二人は体 を合わせた。

翌早朝、トレードマークの緋色の着物に着替え、朱塗りの杖を持って、お市 は茂作の家(というか、はっきり言って「小屋」)を出る。茂作との別れを 決意したのだ。小屋の中からは、茂作の号泣する声が聞こえた。小屋の近くで文藏一家の二人の案内役が待っていて、目の不自由なお市を文 藏のところまで案内しようとする。意外に親切だ。しかし道中、三人の前に 立ちふさがったのは先生だった。先生は文藏一家の手下を秒殺技で斬り殺し、お市を止めようとするが、幸せ を奪われたお市は、忠告を振り切って文藏の元へ向かう。

文藏、お炎の前に現れたお市は、怒りでプルプル震えんばかり。よくも仕込 杖を抜かせやがったな。「ちくしょうーっ!」と絶叫しながら自分から襲いかか る。そして文藏一家もお炎も全員皆殺し。ロケが突然スタジオになったり、モン タージュ使ったり、と映像面の冒険も豊富にアクションを盛り上げる。

しかし、この山場でフィルムがブチッと切れて、映像が一気にエンディング へ。ドスの効いた演歌(歌:扇ひろ子)をBGMに、お市は一人旅を続ける。幸せへの道はやはり 遠かった。それでも短い間だけでも、本当に幸せだった日々があったことは、 噛み締めよう。(終)




映画のできとしては、あまりよいとはいえない、いわゆるB級作。 特に地理が、チンプンカンプン。 宿場町、農村、文藏のいる町、の三ヶ所が主な舞台だが、これらの位置関係 が、皆目わからない。ついでにいうと、代官所はどこにあるんだ?マムシに噛まれて、歩くのにも難儀していたお市が、突然農村に現れたりす る。竜巻で飛ばされでもしたのか?「オズの魔法使い」じゃあるまいし。し かもそこで、いきなりお市が漁師と結婚してしまう。

お炎と文藏が兄妹だった、と突然言われても。宿場町ではお炎はずっと「謎 の女」だったじゃないか。文藏一家の町から、宿場町まではそんなに遠いの だろうか?誰もお炎のことを知らないというのはおかしいよ。

文藏がお市の顔を見るなり、「てめえ、よくも裏切りやがったな!」と言 う。いつのまに、お市があんたの味方になったんだ?第一、これが初対面だ ろ?もうシナリオは支離滅裂。

しかし、この映画には不思議な魅力があって、とても強く印象に残る。それ は登場人物のキャラクター造詣に起因している。

コケティッシュで魅惑的な松岡きっこの悪女ぶり。マムシを握る手さばきも 鮮やか。
近衛十四郎は表情作りと台詞回しがあまりにも渋い。しかも殺陣シーンのあ の速さたるや、まさに電光石火の名人芸。
安部徹、清水紘治、玉川良一の悪党トリオは、大中小とキチンとランク分け されたキャラクターが光る。大悪党は貫禄があり、中悪党はずる賢く、小悪党は粗暴なアホ、とそれぞれポイントが違うのだ。
冒頭でお市に討たれる中丸忠雄は、殺陣はうまいとは思わないが、異常に力 の入った刀さばき。自分の脚まで斬ってしまいそうな勢いで、思いっきり刀 を振り下ろして、映画のテンションを一気に上げた。

しかし何といっても最強のキャラクターは、主演の松山容子だ。
まず顔。 座頭市みたいに白目は剥かず、目を見開いて、視線を虚空に泳がせる。ス フィンクスみたいなカマボコ型の大きな目は、当時のはやりで長めのマスカ ラでデコレーションされており、かなり強烈だ。


次に台詞回し。 二色の声色を使い分ける。少女や漁師と接するときは、情感のこもった細い 声。悪党相手にタンカを切るときはドスの効いた太い声。太い声でタンカを 切っても、藤純子や江波杏子とは違う独特の調子がある。強いて言えば浅香 光代に近い。その声が松山容子のおちょぼ口から出た瞬間、スクリーンは芝 居小屋の舞台みたいな異次元空間と化す。

とどめは殺陣だ! 朱塗りの仕込刀を逆手に持って、激しく動きながら振り回すのだが、なん か変だ。ときどきのけぞったり、手さばきにもムダな、というか意味不明の 動きが入っており、目線はあらぬかたを泳いでいるから、結構怖い。しかも それが延々と続くので、観客は次第にこの世のものでないもの、「狂女の 舞い」でも見ているような、シュールな気分になってくる。そして笑いたく なるのだが、ヒクヒクと笑いはこわばってしまう。

それにしてもほとんどスタントなしで、これだけ長く激しく動けるのは、た いしたものだ。本格アクション女優の志緒美悦子、『修羅雪姫』の釈由美子 ですらこれほどの体力はなかったのではないか?

松山容子はその後『めくらのお市』の原作者の漫画家、棚下照生と結婚し、 芸能界を引退したが、ボンカレーのパッケージ箱で、我々は永らくその姿を見 ることができた。

なお、この作品は、東映で娯楽時代劇映画を沢山作った、松田定次監督の最 後の作品となった。格調や美学はあんまりないが、滅茶苦茶なシナリオで も、役者の個性を引き出して映画を面白くする演出手腕は、強く感じられ る。B級アクション映画は、常に大衆の力強い味方だ。
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