題名 :『木枯し紋次郎 関わりござんせん』

登録日時 :01/07/14 22:06

この映画は、安っぽいタイトルのために、随分損しているのではないか? なかなかどうして、重厚で深い作品だった。とっても得をした気がする。

1972年東映 脚本:野上龍雄 監督:中島貞夫
音楽(津島利章)が特筆物の素晴らしさ。




紋次郎(菅原文太)が旅の途中で藁小屋に立ち寄ると、女(賀川雪絵)が赤子を 殺そうとしていた。間一髪、紋次郎が止める。2人の子供を抱えた女は、半年前 に亭主を亡くし、3人目の子供を間引こうとしたのだった。
「間引き」。なんとまがまがしい因習。誕生を祝福されない子供。いきなり観客 は非日常世界に放り込まれる。

紋次郎の記憶が甦る。上州三日月村で生まれた紋次郎は、2人の兄同様、生まれ てすぐに間引かれるはずだったが、姉のお光が、「お祭りの日だから殺生はダ メ!」と両親を説得して、助けてくれたのだった。それからも何かと紋次郎をか ばってくれた優しい姉は、13歳のとき高崎へ売られていった。数年後に紋次郎 が高崎へお光を訪ねて行くと、すでにお光は深谷に移った後で、その間に三日月 村では山津波が起きて、紋次郎の家族は全滅した。紋次郎が深谷へ行くと、また もお光はどこかへ行方をくらませていた。こうして姉を訪ねて旅を続けるうち、 伝説の渡世人「木枯し紋次郎」が誕生したのである。

さて、女の間引きを止めた紋次郎は、いくばくかの金を女に与えた。 結果は最悪だった。
翌朝、女が3人の子供を殺害した上、首を吊って自らの命を絶っているのが、発 見される。ぶらぶら揺れる女の足元には、紋次郎の与えた金が。野次馬達が言 う。「半端な金があると、なおさら絶望が深まるものさ...」。紋次郎、無言。

この導入部の暗さ、救いようのなさは、いったい何事か、というぐらいインパク ト十分!しかしこれからもっともっと、クラーイお話が始まるのである。

紋次郎は赤城で、下総八幡出身の渡世人、常吉(田中邦衛)と出会う。賭場で大 儲けした常吉を狙った2人組の強盗を、自分への刺客かと勘違いした紋次郎が斬 り殺してしまったのだが、結果的に命を助けられた常吉は感謝感激。
下滝の宿で再会した紋次郎に常吉は、是非お礼を、と精一杯の接待。(田中邦衛 は悪役のイメージがあるので、どこかで豹変するか、と思っていたが、最後まで 「いい人」でした。ゴメンナサイ。)

接待の最後に、常吉は女をふるまう。しかし紋次郎の部屋にやってきたこの自堕落な女(市原悦子)を、紋次郎は全く抱こうとしない。(そりゃあ市原悦子 じゃ、そういう気にならんわなあ。)大正解だった。抱いたらエライことになっ ていた。この女こそ、紋次郎の瞼の姉、お光だった。呑んだくれたお光が歌う子 守唄から、そのことに気付いた紋次郎は、姿を消す。

翌朝、常吉から紋次郎が三日月村の出身であることを聞き、実の弟であることを 知ったお光。
仮にここで、「ああ、あの間引きされかけた弟がこんなに立派になって」と、お 光が感激し、すさんだ精神構造を再構築して人生をやり直す、という方向に物語 が進んでいくなら、この映画は底の浅いお涙頂戴ドラマに終わってしまっただろ うが、そうはならない。
長い年月の苦労が、お光の性根をトコトン腐らせてしまって、もはやあの優し い姉には決して戻れない。紋次郎が姉を慕う気持ちが変わらないだけに、すっか り変わってしまったお光の悪女ぶりが、悲しい。とっても猛烈に悲しい。

弟が伝説の渡世人になっていることを知ったお光は、とことんこれを利用しよう とする。手始めに「あたしの弟は、『木枯し紋次郎』なんだよ!」と、仲間の女 郎連中にいばりちらす。それを聞きつけたこの地の親分、巳之吉(大木実)が やってきて、抗争相手、箱田の六兵衛との出入りに紋次郎の助っ人を頼みたい、 ついてはお前さんから説得してくれ、とお光に言ってくる。その上、もし紋次郎 に助太刀してもらえたら、お光を身請けした上、店を持たせてあげよう、と甘い 話を持ちかけて来る。
悪女お光は脊髄反射で、この話に乗る。「紋次郎の命を助けたのは私だ」という 思いがある。しかし紋次郎は助っ人を断り、姉の身請けの100両(本当は30両 だが巳之吉がふっかけた)は自分が用立てよう、と言って再び姿を消した。

一応、そこそこの大親分なのに、頭を下げて頼んだ助っ人を断られて、メンツを つぶされた巳之吉としては、まったくガマンできない。「あの腰抜け野郎が あ!」と、後になって罵倒する。尊敬する紋次郎が罵倒されてキレた常吉は、ニ セの「木枯し紋次郎」を名乗り、闇夜に六兵衛を襲撃して斬り殺す。

ここで紋次郎を確実に殺害するためのプロジェクトが発足する。プロジェクト リーダーは今市の金蔵(山本麟一)。紋次郎に殺された今市の藤五郎の舎弟で、 10人ほどの凄腕を連れて、紋次郎を追って来た。殺された六兵衛の仲良しでも あったが、紋次郎の首を差し出すなら、六兵衛亡き後の箱田一家も手打ちに応じ させよう、と下滝一家に切り出す。下滝一家の巳之吉にしても依存はない。六兵 衛を討ったのは紋次郎でないことを知っているのだが、メンツを潰された恨み、 晴らさいでおくものか。

一方、紋次郎はさまざまな賭場で、姉を助けるための100両を稼いでいた。し かし遂にできた100両を預けた常吉は、それをお光に届ける前に、巳之吉の一 家に殺される。だからお光は、紋次郎が自分を助けようと必死に頑張ったことを知らない。「木 枯し紋次郎殺害プロジェクト」の一味となって、紋次郎をおびき出す手紙を書 く。ちなみに紋次郎は字が読めないので、赤城の代貸に読んでもらう。

常吉の遺言をお駒(中村英子)から聞いた紋次郎は、罠と知りつつ、手紙で誘い 出された玉村宿に向かう。

そして、クライマックス。
ここまでフィルムは焼けて赤っぽいのだが、このシーンはやたらと埃が立って、 白っぽい。
金蔵と巳之吉の連合軍が、コラボレーションして紋次郎を襲う。でも結局全員、 紋次郎の手にかかって皆殺しになる。
お光は、一緒に逃げようとする紋次郎の手を振り解いて、巳之吉に駆け寄るが、 巳之吉にボロキレのように斬られる。そしてボロキレのように死ぬ。このシーン が物凄い。ここで一瞬、昔の優しい姉に戻って、一言コメント、とか、姉弟の最 後の会話、とか、救われるシーンが全然ない。なんも言わず、ちょっと謎めいた 微笑を浮かべるだけで絶命する。観客としてはこう思うしかない。この女は死に場所を求めていたのだ、と。 不幸な人生のある時期から、この女は、生き死になどどうでもよくなってしまっ ていたのだ。ここまで落ちたお光を紋次郎が救うことは絶対に不可能だった。 「優しい姉」を求めて流離う紋次郎だったが、もう「優しい姉」はどこにもいな い。お光が死んだ今の瞬間に「優しい姉」が忽然と消えたわけではなくて、実は 姉が高崎に売られた日から、「優しい姉」はもういなくなっていて、紋次郎が求 めるものは全くの幻影にすぎなかったのだ。なんて悲しい結末だろうか。なんて年月って残酷なんだろうか。登場人物は誰も 泣かない。観客だけが胸と目頭を熱くする。

最後の最後に、紋次郎に斬られるのは、今市から紋次郎を追って来た金蔵 (前作は漁師役だったが、今回はヤクザ役なので、自慢の肉体美を披露す るチャンスがなかった)。こいつの絶命直前の台詞が、紋次郎の行く末を示唆し ている。
「俺が死んでも、次の奴が...。 そいつが倒されても、また次の奴が...。 テメエが生きてる限り、楽はさせねえ...。」
おそらく金蔵の予言通り、紋次郎の心が休まることは、これからもほとんどないであろう。求めていた「優しい姉」まで失って、この男は何を心の支えにして、 生きていくのだろうか...。(完)




全く後味の悪い、救われるところが微塵もない映画だったが、味わいが深いオス スメ作品である。

余談だが斬られ役に川谷拓三の姿は見えたが、福本清三は見つけることができな かった。残念。

それから、菅原文太は顔はゴッツイが、脚がカトンボのように細い。旅から旅へ 渡り歩く渡世人があんな脚してるわけない、と思うのだが、これがある種のスタイルを形成しているようにも思えた。ちなみに中村敦夫の場合、競輪学校 で鍛えたという太ももの直径が、他の追従を許さない。

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