題名 :『木枯し紋次郎』

登録日時 :01/06/30 20:30

菅原文太の映画出演は、なにしろ圧倒的にヤクザ映画が多い。『緋牡丹博徒』の ような任侠物、『まむしの兄弟』のような痛快作、そして不滅の金字塔『仁義な き戦い』を代表にする実録シリーズ。ビジュアル的にかなり顔がゴッツイのと、 語り口が妙にドスが効いているので、ヤクザ・ヒーロー役にはピッタリはまろ う、というもの。けれども、俳優になる前はファッション・モデルだった、とい う経歴は意外に知られていない。

『木枯し紋次郎』は1972年公開(東映)。大ブレイクする『仁義なき戦い』の前 年である。監督は中島貞夫。東映でヤクザ映画を沢山作った人で、最近でも『極 道の妻たち』シリーズを手がけている、東映ヤクザ映画の第一人者。けれども、 ドキュメンタリー作品(おもに性風俗を扱ったもの)を何本も撮っている、とい うことは意外に知られていない。つまりこの監督は、「リアリズム」へのこだわ りが、かなり強い。「実録」系=深作欣二監督、というイメージを多くの人が抱 くが、実は東映の「実録ヤクザ映画」路線を仕掛けていたのは、この人だと個人 的には思っている。

『木枯し紋次郎』は、時代劇ながら実録路線のヤクザ映画である。時代劇版の 『仁義なき戦い』と言ってもよい。あちこちに非常なリアリズムへのこだわりが 感じられる。例えばヤクザの集団と紋次郎が戦うシーン。現実的な視点でいうな ら、人と人が刃物を手に命のやり取りをするため対峙する、というとき、冷静で いられるわけがない。映画の演出もその通り。アドレナリンが大量に分泌し油汗 を流しながら、眼球が飛び出んばかりの形相で、ヤクザ達は紋次郎に「ウッホッ リャー」などと奇声を上げて襲いかかる。声をあげなきゃ体が動かないのだ。そ して紋次郎に斬られるが、すぐには絶命しない。「ヒャッ、キャー、ウーアー」 とか意味不明の裏返った悲鳴を上げながら、ヤクザ達は地べたにもんどりうっ て、ゆっくりと死んでいく。

このリアルな演出は、『仁義なき戦い』とそっくり。斬られる側も相当のガンバ リが必要だが、斬られ側で特に目立っていたのは、タイトルクレジットに名前が 出ない、川谷拓三と福本清三の両氏だった。特にフクちゃんは斬られて画面から 一旦消えるが、再び立ち上がる後ろ姿が画面の左下に映り、また倒れて画面から 消える、という展開がとてもスタイリッシュ。キャメラを意識したアクションと いう点で、フクチャンにかなう奴は今のところ誰もいない。すばらしい仕事だ。




切石の忠兵衛一家に、紋次郎(菅原文太)が訪れて、一宿一飯の世話を申し込 む。このときの紋次郎の立ち振る舞いは、当時のルールに従ったものなのだろう が、とても美しい。
紋次郎と同じように、忠兵衛一家に世話になっている男、日野の佐文治(小池朝 雄)と2人で晩飯を食う。食った後、茶碗は裏返し、食い残しの魚(骨付き) は、懐紙に包んで引き取る。このあたりの所為仕草も、キマッテいる。
そのとき、出入りの助っ人を頼まれた二人は大活躍。大門の岩五郎一家を相手に 大立ち回り。すっかり紋次郎を気に入った佐文治は、紋次郎を客として日野にある自分の一家 に迎える。日野で紋次郎はお夕というカタギ女(江波杏子)と懇意になる。

しかし事件が起きた。お夕にしつこく言い寄るすけべな十手持ちを佐文治が殺し てしまった。佐文治には病気の母親がいた。紋次郎は佐文治の身代わりになっ て、下手人として名乗り出る。刑は八丈島への流刑と決まった。佐文治は母親の 最期を看取ったら、真犯人として名乗り出よう、と約束する。このあたり、小池 朝雄が悪役らしくないので、ちょっととまどった。
流人を乗せた船が八丈島へ向かうとき、お夕を乗せた小船が後を追ってきた。も う追いつけない、とみるやお夕は海面に飛び込んで、自害した。(何故?)


それから数年後、紋次郎は八丈島で流人として過ごしていた。得意技は竹細工。 かごを編んだり、自分の超長楊枝を作っている。他の流人、清五郎(伊吹吾郎) が、一緒に島抜けをしよう、と誘うが、紋次郎は拒否する。佐文治との約束を信 じているからであり、流人の中にいる死んだお夕に生き写しの女の面倒を見ているからでもあっ た。この女は江波杏子の二役であるのは、まあ許すとして、名前まで「お夕」なの は、書きこみする上で困ってしまう。以下では『お夕B」とする。

新しくやって来た流人から、佐文治が母親が死んだにもかかわらず、真犯人とし て名乗りをあげていないことを知った紋次郎は、お夕Bの自殺もあって、島を離 れ、真実を知ろうとする。

おりしも八丈島の火山の大噴火(天保6年)が発生。混乱に乗じて、船で島抜け したのは、以下の五人。
紋次郎:菅原文太  職業:ヤクザ、罪状:殺人
清五郎:伊吹吾郎  職業:ヤクザ、罪状:殺人
捨吉:山本麟一    職業:漁師、罪状:殺人
源太:渡瀬恒彦    職業:無職、罪状:淫行
お花:賀川雪絵    職業:遊女、罪状:放火

源太は島抜け直前に、島の住民を殺害してきた。子供まで殺される不快なシーン なので詳しくは説明しない。しかしそのことを聞いたお花は、性欲が高ぶる。殺 人に興奮するヘンタイである。性欲が高ぶった源太とお花は、他の3人が見ているなかで、アレを始める。エー 加減にセーヤ、という観客の思いを代弁するように、捨吉が重なった2人を突き 殺して、2人の亡骸は海に捨てられる。
無慈悲な捨吉と清五郎が対立するが、『キャスト・アウェイ』のような暴風雨が やって来て、紋次郎、清五郎、捨吉の3人は、伊豆の海岸に打ち上げられた。島 抜けの秘密を防ごうと、他の2人を襲った捨吉を紋次郎が倒した。しかし清五郎 は足に深手を受けた。

彼らが辿り着いたのは、伊豆の網代だった。網代を束ねる宗助の一味が紋次郎と 清五郎を襲う。これを一蹴したものの、清五郎は致命傷を負う。そして告白す る。自分は刺客だった、紋次郎を殺す役割を与えられていた、と。ここで伊吹吾 郎、頑張ります。「イテエよう、死にたくネーよう」と「殺してくれよう」とい う台詞を繰り返しながら、筋肉質な体で仰向けになり、クネクネと身を捩る。紋 次郎が清五郎ののどにトドメを刺す。

真実を確かめるため、紋次郎は日野に向かう。途中で網代一家と佐文治一家のハ サミ襲撃を受けるが、これも一掃。およそチャンバラなど経験のないであろう菅 原文太を中心に、『仁義なき戦い』的な超リアルな殺陣が展開するのはここだ。

紋次郎が佐文治のところに着いて見ると、佐文治は地回りの十手持ちとなってい た。しかもお夕Aは生きていて、佐文治の妻となり、子供までもうけていた。佐 文治は十手を持ちたいために、紋次郎を罠にかけたのだった。しかもオリジナ ル・プランは、お夕が作ったものだった。真相を知った紋次郎は、佐文治を斬る。

子供を抱いたお夕Aが言う。カタギの家で育った私がヤクザ者の佐文治と一緒に なる、と言った時点で私は親に勘当された。こうなってはもうどこへも行くとこ ろがない。いっそ私をこの子もろとも、殺しておくれ。そうでなかったら、私が どうすりゃいいのか、教えておくれ。超ハイテンションな濃い演技。

ここで、あの伝説的な決め台詞を紋次郎が言う。ちょっと間をおいてゆっくり と、噛み締めるように。私の耳はダンボ状態。

「アッシには、かかわりのねえことで、ござんす。」

クーッ。決まったあ!

そして母子には手を出さず、紋次郎はいずこかへ、姿を消す(完)。




他人との関わりを常に拒否するかのような、寡黙な紋次郎の言動。けれども実は人一 倍、「愛」に餓えている、という紋次郎の内面。これって実はマタタビ物の常道 なのかもしれない。
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