題名 :『子連れ狼 三途の川の乳母車』

登録日時 :02/04/14 01:15



若山富三郎の『子連れ狼』シリーズは、今まで2本見ているが、個人的には面白くなかった。で、この『三途の川の乳母車』も、さして期待していなかったのだが、見てみたらビックリ。なかなかよい。なによりもチャンバラがよい。
まず、敵方のキャラクター造詣が丁寧で深く、彼らと一刀の対決が、互いの存在理由をかけた価値観の対決として感じられる。こういう背景をドラマに仕込んでおいてこそ、チャンバラは盛りあがるというものだ。そしてそのチャンバラの殺陣付けが、とってもアイデアが豊富。相当苦心したに違いないが、充分に観客を満足させるものに仕上がったと思う。
さらに、残虐趣味ながらもスタイリッシュな映像が、もう爆発としか言いようがないぐらい強力。若山富三郎の持ち味である迫力とスピードが存分に生かされた。大満足。

1972年 製作:勝プロ 公開:東宝 監督:三隅研次 脚本:小池一夫 カラー 85分



野原の一本道で拝一刀(若山富三郎)親子を、虚無僧姿の柳生の一人の刺客が襲う。一刀の唐竹割りの一撃を刺客は新陰流の奥義、白刃取りで受けたが受け損ねて、額に2寸ぐらい一刀の肉厚な刀が食い込んだ。そのとき刺客の後ろに潜んでいた、もう一人の男が、最初の刺客の肩を踏み台にして飛びかかってきた。巧みな二人一体の攻撃だったが、一刀は最初の刺客に押さえられた刀から手を離し、乳母車に仕込んだ別の刀で二番目の刺客を倒す。

その頃、明石柳生の女当主、柳生鞘香(さやか:松尾嘉代)の元に、江戸から柳生烈堂の指令を伝えに、忍者集団黒鍬衆の首領、小角(おづぬ:小林昭二)がやって来る。どんな手を使っても拝一刀を討て、というのが烈堂の指令だった。火のような女、鞘香は「いざとなれば黒鍬衆が助太刀を」という小角の言葉にカチンときて、配下の女達、別式女と、黒鍬衆で一番の使い手、十内を戦わせる。
いや、この十内はこの映画で一番ひどい目にあった人物だった。10人ほどの別式女達は、なぜか股間から短刀を取り出すと、十内をなぶり殺し。耳が削がれる。指が切り落とされる。鼻が削がれる。左腕、右腕、さらに片足、と次々に人体パーツが展覧会みたいに床に陳列され、最後は芋虫みたいに這う十内を無残に突き殺す。「未熟者!」と鞘香は高笑い。女王様みたい。

一方、一刀は新たな刺客の仕事を請け負った。標的は阿波藩から高松藩に脱走した、藍染めの職人頭、幕谷忠左衛門。 幕府は阿波藩の藍染め技術を盗もうとしていて、忠左衛門を江戸に連れてくるため、「弁天来三兄弟」という凄腕を雇っていた。阿波藩はなんとしてもこれを阻止しようと、一刀を雇ったわけだ。

しかし、高松に向かう一刀親子を、明石柳生の別式女達がコスプレで襲う。
最初は大道芸の三人組。二番目はお遍路姿の二人組。最後は大根を洗う三人娘。いずれも返り討ちにあうのだが、このチャンバラはとてもスピーディー、かつ残虐趣味。例によって、股間から短刀を取り出す別式女達だったが、彼女らのその部分はどういう構造になっていたのか、追求したい気はする。だって抜いたらいきなり刃が出てて、鞘がないのよ。
ちなみに、別式女達の中に鮎川いずみと三島ゆり子の顔があった。台詞はほとんどなし。

そして遂に明石柳生の当主、鞘香が剣参!一刀と1対1で戦うが、やや劣勢となったところで、引く。この引き方がとても不思議な映像。蛇が脱皮するみたいに着物を脱ぎ捨てると、黒いレオタード姿。そこまではいいとして、捨て台詞を吐くと、あとずさりであっという間に姿を消す。100mぐらいの水のない田んぼをあとずさりに5秒ぐらいで渡ってしまう。でも見たところ足はそんなに速く動いてはいない。逆回し&コマ落としかな?なにしろ不思議な映像だった。

明石柳生を退けた一刀を、今度は忍者集団の黒鍬衆が襲う。しかし首領の小角と二人の部下以外は一刀親子の手に掛かり、ほとんど壊滅状態。若山富三郎はトンボを切ったりして、大暴れ。小角はプライドを捨てて、大五郎を人質にとって一刀を誘い出すが、冥府魔道を行く一刀親子のゆるがぬ精神力に二人の部下ともども、討たれる。その場にいた鞘香は一刀の迫力に呑まれて何もできなかった。それにしても流血が、凄まじい。

高松に向かう船には、例の三兄弟とお歯黒で変装した鞘香も乗っていた。阿波藩の雇った別の刺客が船に放火したので、一刀親子は逃げ出す。後を追って来た鞘香ともども親子は、瀬戸内海の島に流れ着いた。一刀は島にあった小屋で裸になると、大五郎も裸にし、さらに抵抗する鞘香も裸にひん剥いて、三人で抱き合う。火のない小屋で寒さを凌ぐための手段だったが、鞘香は一刀親子に、特別な感情を抱いてしまう。
松尾嘉代は中年になってから脱ぎまくったのに、この映画では代役を立てている。彼女のヌード写真集のプールのシーンでは、松尾嘉代の後ろに潜んだスタッフが、必死に彼女のワキ腹のゼイ肉を後ろに寄せていた、という。そうなる前になんでこの映画でナイスバディを披露しなかったのか、残念だ。とても。

高松藩で弁天来三兄弟は、藍染め職人頭を護衛して数人の高松藩士とともに砂丘を歩いていた。この三兄弟がなかなか魅力的なキャラ。狂人のようなイカレた悪役ではなくて、刺客という自分達のポジションを冷静に見つめる目を持った、知的でクールな連中なのだ。
弁馬(大木実) :武器は手甲装牙。手に装着するカギ爪みたいなもの。
天馬(新田昌玄):武器はコンピ。中国武術でおなじみのやつ。
来馬(岸田森) :武器はあられ鉄拳。トゲトゲがついてる。

砂丘で弁馬が異常を感じ、砂の下に潜んでいた敵を次々と手甲装牙で串刺しにして引きずり出す。乾いた砂が地を吸う映像が、スタイリッシュ。耐え切れず20名ぐらいの阿波藩士達が砂から飛び出して来たが、冷静な三兄弟は血祭りの返り討ち。彼らの武器は普通の刀と違い、至近距離でしか使えない物ばかりなので、常に踏み込んでいく。踏み込んで相手を倒す。ここにはひとつの凛とした価値観がある。抜群にカッコいい。

阿波藩士達を倒した一行が向かう先には、ぽつねんと大五郎が立っていた。大五郎が指指す先には、拝一刀の姿が逆光で映る。「砂」と「太陽」とが揃ったらここに追加すべきは「血」ではあるまいか?ここから始まる三兄弟と一刀の死闘。これはもう、是非見てください、としか言いようがない。何か言ったら感動が薄れてしまう気がする。これぞ三隅節!扇情的なドラムをメインにした音楽も素晴らしい。

三兄弟を倒し、ターゲットを始末した一刀の前に現れたのは、柳生鞘香だった。ここで何があったのか映画は語らない。鞘香は刀を取り落とし、一刀親子は旅を続ける(完)。



この映画、いいっす。
大木実も松尾嘉代も、もちろん若山富三郎もいいが、しかし個人的MVPは小林昭二。シブくて重厚で、完璧。いや本当にすごい。「すごい」という言葉を今年はなるべく使うまい、と心がけているのだが、この場合禁を解く。
--------------------------------------------------------------------------------

時代劇映画感想文集トップへ