題名 :『影狩り ほえろ大砲』

登録日時 :00/12/23 22:01


1972年 石原プロ製作 東宝配給 監督:舛田利雄



江戸時代後期、財政が逼迫した徳川幕府は全国に「影」と呼ばれる隠密・忍者を派遣し、不始末を暴いてはその藩を取り潰し、領地を没収して、財政赤字の補填に充てていた。

と、いきなり物凄い設定。
これ、原作はさいとうたかおの劇画なんですな。当時(昭和40年代)の週刊ポストに連載中だったそうです。

その「影」達の活動をことごとく妨害する、3人組の浪人が現れた。「影狩り」を名乗る彼らが介入してくると、「影」達は甚大な被害を覚悟せねばならなかった。
その3人とは
室戸十兵衛(石原裕次郎) 鋼鉄の意志を持つ凄腕(リーダー)
日光(内田良平)     明るくスケベな凄腕
月光(成田三樹夫)    クールで陰のある凄腕
です。

映画のオープニングは、「影狩り」が一仕事終えて去った現場に、「影」大目付(丹波哲郎)が乗り込んで来るところから始まります。明るく軽快なテーマ曲に乗って、じっくりと舐めるようにカメラが映し出すのは、無残な死体の累々。これは惨い。「バトル・ロワイヤル」なんて目じゃない。当時はこういう残酷趣味が普通に受け入れられていたんですね。

さて今回の舞台は九州の小藩。当時銃器の類いの製造・所有は幕府によって固く禁じられていましたが、この藩は例外的に150年前の由緒ある古大砲を記念品として所有することを許されていました。ところが血気さかんな若い鉄砲頭が、「こげん古か大砲は実戦に使えんばい。」と鋳溶かして新しい大砲を作ってしまいました。このことが幕府に知れたら藩の取り潰しは決定的。家老(青木義朗)は、人里離れた山奥で作った新しい大砲をお城まで運んで、それを古い大砲だ、とシラを切る作戦をたてました。20日後の「大砲検め」までに輸送を終えないといけないのですが、「影」の妨害が予想されるところ。

そこで家老は「影狩り」3人衆を雇います。
「影狩り」の藩への侵入を見過ごしてしまった「影」の見張り役は、即処刑。「お前一人の失敗で、いったいわれらの何人の命が失われることか・・」と自ら処刑したあと、つぶやく甲賀忍者の首領。こうして「影」対「影狩り」の血みどろの戦いが幕をあけます。これ本当に「血みどろ」なんですよ。

大砲はなにしろ重い。頑丈な大八車に乗せ、牛に引かせて山道を行くわけですが、途中で事故があったり、「影」に襲われたりして命を落とす者が続出。子供まで死んでしまう。そんなときは、道端に穴を掘ってその場で埋葬し、キャラバンは輸送を続行。
壮絶です。その一言です。しかも途中で藩の家老は「このすばらしい大砲を幕府に渡すなら、見逃してやろう」という「影」大目付の言葉に乗って裏切ってしまう。絶体絶命の窮地に陥った影狩り達は、最後に大砲を発射してピンチを打開したのでした。(完)



さて主役を張る石原裕次郎ですが、私はよくないと思います。日活アクションで活躍してた頃は、素晴らしい輝きのある人でまさに「スタア」でしたが、この頃はすでにでっぷりと丸顔になっていて、その上顔面一杯に髭を生やしているものだから、一見、マサ斉藤かパパイヤ鈴木にしか見えない。
芝居は上手いんです。目で演技できる抜群の技術があるので、そういったシーンは見所。しかしチャンバラが、足が長い体型のせいか、腰高に見えてどうしてもサマにならないし、あの丸顔では「アクション・スタア」はかなり苦しい。路線を間違えてますよ。「太陽にほえろ!」とか「西部警察」とかでは、その辺を理解したようで、ほとんど「動かない」役に徹して存在感出してましたよね?

一方、大満足させてくれたのが故成田三樹夫。いつも悪役でしたがこの映画ではめずらしく主人公側。この人の殺陣はちょっと癖があって、やたらフォロースルーで伸びる。普通の人より一伸び多い、独特のものです。
圧巻は延々5分強に渡る、「影」の襲撃を一人で迎え撃つシーン。ここでは襲う側の「影」達も、迎え撃つ成田三樹夫も、声を発しないんです。最初からお互い無言。刀のぶつかる金属音と、床を踏み込む足の音と、人体を斬る刀の音が延々と続きます。超クール!成田三樹夫の「伸び」もさらにもう「一伸び」して、一段とグレードアップ!いやあ、シビレたなあ。堪能!

内田良平も悪役が多いですが、この映画では善玉で、ノビノビとやりたい放題。「影狩り」の他の2人の暗さを補ってオツリが来るほどの明るさ。こんなキャラだったかしら?ベッド・シーンが沢山あるけど、相手がカルーセル麻紀じゃ、あんまりうらやましくないぞ。それからキスのとき舌を入れるのはやめろ。

他の出演陣も気合い入ってます。

夏純子。「目」の力が物凄い。小野みゆきや浅丘ルリ子に匹敵すると思います。今まで「ワイルド」というイメージを持っていて、勝手に「野生派」に分類していましたが、この映画の繊細な演技、例えばハラハラと涙を流すシーンなどを見ると、考えを改めねば、と思います。意外に正統な「演技派」かもしれない。最後は大砲とともに爆殺しますが、これが唐突に感じられず、不思議に納得してしまうのは、そこまでの丹念な演技・演出があったから。

白木万里。後に「必殺」の中村主水の妻の役で知名度が一気に上がるわけですが、当時からすでに「オバさん」っぽい。腿を見せて男を誘うあたり、「熟女の色香」がムセるほど映画館に一気にたち込めて、結構イケてたと思います。

青木義朗。個人的にチョー大好き。この人に対する世間の評価は不当に低すぎる、と思ってます。ふてぶてしい面構えは悪役向きでしたが、声のよさと台詞回しの落ち着きに、「格」を感じます。丹波哲郎に全くヒケをとらない。裕次郎よりも高みの境地にいる。フィクション・作り事としての映画・TVドラマの限界を知りつつ、それでもそこにある種の「こだわり」「情熱」を持って最高レベルの演技をしていた稀有な存在。彼の本質的な素晴らしさをもっともっと多くの人にわかってほしいなあ、と思ってます。ベストは映画「戦争の犬たち」。機会があったら是非ごらんください。

カルーセル麻紀。くのいちのリーダーという役どころですが、扱いは完全に「女優」。細く尖ったあごと鋭い目つきが、役にマッチしていたと思います。「怪演」ではなく、「熱演」。これでもか、とその個性を発揮してくれました。意外なことになかなか胸を見せないのですが、最後の最後でご披露。
別に嬉しくはなかったが、「お約束」は果たされたようで、一安心。

映画全体としては、救いようのない陰惨なストーリー(結局影狩り3人以外の主要人物はみんな死んでしまう)ですが、演技陣、製作側の情熱、テンションの高さが活劇を素晴らしく盛り上げています。冷静に考えるとトンデモに属する1本ですが、ここまでテンションが高いと、全て許せてしまいます。

でも許せないのは石原裕次郎の「顔」なんだなあ!

裕次郎が露天風呂に一人入っていると、若い女が5、6人次々に入ってきて、
「良い月ですね。」
「まるで極楽のようですね。」
と言います。しかし女たちは「影」の刺客。隙をついて裕次郎に襲いかかりますが、全員惨殺。露天風呂に女たちの流した血が広がります。「バカヤロウ。極楽を地獄に変えやがって。」と裕次郎は独り言を言って、血の池と化した露天風呂から上がります。ただし顔はパパイヤ鈴木。
こういうシーンはどうもミスマッチに思えました。パパイヤ鈴木の顔で、そんなキメ台詞を言われても、キマらないのです。

敢えてタブーを破って皆さんに問い掛けたいのですが、
石原裕次郎ってカッコイイと思いますか?
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