題名 :『無宿人御子神の丈吉 川風に過去は流れた』

登録日時 :00/09/17 22:44


原田芳雄の出演映画、というと私はどうしてもシュールなイメージが浮かんでしまう。ATGの「竜馬暗殺」は前衛映画そのものだったし、全ての登場人物が生きてんだか死んでんだかわからない「陽炎座」、倒錯的なサイコ・サスペンス「卍」、最近では手塚真監督のサイケな映画「白痴」、ホラー映画「アナザヘブン」など、どこかしら現実離れした、超常的な舞台が、原田芳雄には用意されることが多い。

それは、ひとえに彼の「存在感」に起因するように思える。あの達者なガタイ、彫りの深いフォトジェニックなマスク、ガラガラにつぶれた声でのぶっきらぼうな台詞回し。内側に大きなエネルギーを爆発寸前に抱えこんでいるようにも、逆にひどく投げやりな乾いたニヒリズムに染まっているようにも感じさせる、あの「存在感」は普通のドラマでは、常に過剰である。

だから、普通でない「超常」のドラマでこそ、座りがよくなる。まわりが超常的な中で、見慣れたあの原田芳雄がおなじみのぶっきらぼうな台詞を吐くと、何となくバランスがとれたようで、観客は安心してしまうのである。普通のドラマなら、完全に浮いてしまうのだが。

さて、その「過剰な存在感」の俳優、原田芳雄が主演した「無宿人 御子神の丈吉 川風に過去は流れた」を見た。予想に違わず、不条理劇のようなシュールな映画だった。



冒頭はこんな感じである。

一人の男が、やくざ者にいじめられている。
「かたぎでも、これぐらいの落とし前はつけてもらうぜ!」
と言って、やくざ者は男の左手の薬指、小指を石で打ち砕く。ひどい血が流れ、男は絶叫してもんどりうつ。しかし男はもんどりうちながらも、やくざから刀を奪うと己の砕けた2本の指を、自ら切断してしまう。そして立ちあがる。原田芳雄であることがわかる。そして男が夜を徹して走り、我が家に駆け戻ると、そこでは男の恋女房と一粒種の息子が、惨殺死体になっていた。女房は殺される前に犯された様子である。男は復讐を誓い、かたぎの身から、再び伝説の渡世人「御子神の丈吉」に戻ってしまう。こうして男の復讐の旅が始まる。

という出だしなのだが、ここまで約3分。なんでやくざが丈吉をいじめたのか、誰が何故、女房を犯し息子ともども殺害したのか、全く説明がない。しかし、原田芳雄の例の「存在感」が、観客のツッコミを許さない。女房の遺品の赤い帯を締めて、旅支度のカッパをまとう原田芳雄を見ていると、それ以上ツッコム気が失せてしまうのである。

それからも、わけがわからない。

中村敦夫演じる隻眼の渡世人がときどき現れるのだが、彼が何者なのか、丈吉とどういう関係なのか、さっぱりわからない。仇の一人は、庶民の支持も高い義侠の人、国定忠次(峰岸隆之介)なのだが、なんで忠次が女子供を殺したりしたのか、これも説明なし。というか、丈吉と忠次は刀を交えることも、会話をかわすことすらもなく、映画は終わってしまう。唖然とする展開である。

丈吉が護衛を引き受けた娘(中野良子)は、旅の途中で丈吉を付け狙う片目の男(菅貫太郎)に犯され殺されてしまう。高慢でわがままで超生意気な娘だったので、私は心中密かにザマアミロと思ったのだが、シナリオの展開上は、まずいのではあるまいか。これでは娘が出てきた意味がない。(どうでもいいけど「野生の証明」でも中野良子は犯された上、殺されてたなあ。犯人は舘ひろし。)

旅篭に丈吉が泊まっていると、刺客が一人襲ってきて返り討ちにするのだが、この刺客の素性も、差し向けたのが誰かも、全然わからない。

松戸と流山のやくざ同士の出入り。松戸の親分は安部徹、流山の親分は加藤嘉で、顔を見ただけでどちらが悪役かはっきりわかるわけだが、なんで彼らが抗争しているかも、一切説明なし。松戸の親分は丈吉を殺すための罠をかけたことになっているが、どういう罠だったのか、終わりまで見ても全くわからない。

それでも原田芳雄は、そこに存在する。圧倒的に存在する。もう彼にとっては、時代劇も現代劇も関係ない。殺陣は無茶苦茶、台詞回しは当時からあの声、あの調子。どんな役をやっても原田芳雄は原田芳雄なのである。彼の表現は「演技」などというものを超えていて、そこに「いる」ことに始まり、そしてそのまま完結している。凄い奴だ。



ようするにわからないことだらけなのだが、それを原田芳雄の存在感で強引に押さえ込んだ、シュールなロード・ムービー。

宮川一夫が撮る日本の風景の美しさは相変わらずだし、「日本昔ばなし」をやる前の市原悦子は普通にしゃべってたんだなあ、と新しい発見もあったりするわけだが、あまり積極的にはおすすめできない一本。

1972年、東京映画製作、東宝配給。
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