題名 :『無宿人御子神の丈吉 牙は引き裂いた』

登録日時 :04/04/19 17:52


1972年 製作:東京映画 公開:東宝 監督:池広一夫 カラー 88分

一作目「牙は引き裂いた」をついに見た。これでシリーズ制覇。
撮影は宮川一夫で、池広監督とは、倒産した大映からの落ち武者コンビである。そのせいというわけでもないだろうが、微妙にやさぐれたような厭世的なニヒルさが、全編に滲んでいる。



房州御子神産まれの丈吉(原田芳雄)は、関東一円で名高い無宿人である。しかしその一人旅は、チンピラに命を狙われたり、腹痛で苦しんでも誰の手当てもうけられなかったり、かなり悲惨でヒロイックさとは程遠い。

宇都宮宿近くで、丈吉は豪雨の中を生爪を剥がした足で歩いていたが、茶屋の女・お絹(北林早苗)が、親切に手当てをしてくれた。翌日、お絹に目をつけていた地元のやくざ・如来堂の久兵衛(南原宏治)が兄貴分の開雲の長五郎(内田良平)と一家を連れてやってきてお絹にからんだ。丈吉が奥から現れ、久兵衛たちを追い払った。

それから3年。
丈吉とお絹は宇都宮を離れ、武州本庄宿でかたぎの細工師として暮らしていた。二人の間には男の子も生まれていた。

ある日、宇都宮に商用で出かけた丈吉は途中で久兵衛の一家に捕まり、ひどいリンチで左手の小指と薬指を潰された。ちなみにこのリンチをする男は伊達三郎で、彼もまた「大映はぐれ組」の一人である。木村玄はどうした?
宇都宮からの帰り道でも、また久兵衛の子分たちが待ち伏せしていた。今度は沼に突き落として小便をかけるぐらいで済んだが、女房子供のために我慢したってもう無駄だぜ、と言われる。丈吉が急いで帰ってみると、女房と子供は惨殺されていた。女房は殺される前に強姦された様子でもある。ここは画的に、インパクトが結構きつい。

女房子供の火葬を終えると、丈吉は長脇差の封印を解き、女房の遺品の赤いシゴキを腰に巻いて、無宿人に戻った。まず家の周りで様子を窺っていた伊達三郎をとっ捕まえると、脅して殺人の下手人を聞き出した。犯人は久兵衛、長五郎、それに国定忠治だった。八州廻に追われる忠治を逃がす算段のため武州に集まった彼らは、偶然にお絹らを発見したのだった。そこまで聞き出せばもう用はない。丈吉は、女房の輪姦に参加したと吐いた伊達三郎を惨殺した。

丈吉は、いきなり単身で久兵衛一家に殴りこんだ。ケモノのような荒々しい剣で暴れまくる丈吉は、一家の者を何人も斬り、ついに久兵衛を追い詰めたそのとき、ブルース・リーのような変な髪型をした隻眼の男(中村敦夫)が立ちふさがった。久兵衛一家に泊まっていた無宿人・疾風の伊三郎である。伊三郎と斬り合う中、丈吉はがけから川に落ちた。

数ヵ月後。
丈吉は、温泉で傷を癒していた。
その宿には、病弱そうな男(菅貫太郎)とその妻・お千加(松尾嘉代)も泊まっていたが、ある日この夫婦が山賊に襲われ、夫は川に突き落とされ流されてしまい、お千加は犯されそうになった。丈吉がお千加を助けようとしたら、天狗の親分と呼ばれる男(峰岸隆之助)が突然現れて、山賊たちを撃退した。この男も宿の客になった。
翌日、山賊たちが多勢で仕返しに宿を襲ってきた。丈吉と天狗が二人で戦ったが、宿の娘が人質に捕られてしまった。娘を殺されたくなければ刀を捨てろ、と敵がお決まりの台詞を言う。この娘は天狗の恋人だったのだが、警告を無視して天狗は平然と敵の首領に近づいた。そして娘が殺されるのも構わず、敵の首領を斬り殺した。その冷徹さに山賊の子分たちもビビッて逃げ出した。

さらに翌日、丈吉が目を覚ますと、宿の親父がやはりヤクザ者は信用なんねぇと怒って、丈吉を追い出そうとした。山賊が退治されても娘が殺されては何にもならない、天下の国定忠治といえども、あんな程度の男だ...
え?国定忠治?

天狗と呼ばれていた男は仇の一人、国定忠治だった!
既に宿を発っていた忠治を丈吉が追おうとするが、行き先がわからない。そのとき未亡人のお千加が、あたし知ってます、と名乗り出た。お千加の叔父が喜十一家の代貸をしていて、忠治が喜十一家に立ち寄ると話していた、というのだ。

お千加に連れられ、丈吉は喜十一家の代貸・銀蔵(花沢徳衛)を訪ねる。銀蔵はいかにも折り目正しい誠実な老人やくざという感じで、丈吉の話を聞くと確かに国定忠治は喜十一家に草鞋を脱いでいるが、女子供を手にかけるようなお人じゃねえ、と言った。そして本人に確認してくる、と出掛けていった。
夜中に喜十一家の若い者が丈吉を襲うつもりでやってきたが、ちょうど帰ってきた銀蔵が若いもん達を一喝して引き上げさせ、明日、寺で喜十を立会人にして丈吉と忠治で話し合いをしよう、と話がまとまったと告げる。丈吉は承知した。

翌日、丈吉が約束の寺に行くと、入り口で荷物とともに刀が取り上げられた。本堂に丈吉が入ると、喧嘩支度をしたやくざ達がとり囲んだ。先頭に立っているのは喜十一家の親分、巳之吉であるが、この男は温泉宿で川に流された病弱な夫だった。巳之吉はせせら笑って、「温泉宿に丈吉が泊まっていると聞いて、丈吉を丸腰にするために巧妙な作戦をたてたのだ」と自慢した。
そんな自慢するような作戦でもないだろうに。もし温泉宿で何かの拍子に丈吉が忠治の正体を知ったら、作戦は破綻していたはず。

忠治はすでに旅立っていた。巳之吉の隣では、銀蔵が騙し撃ちですまねぇすまねぇと謝っていたが、喧嘩支度をしっかりしていて殺る気満々じゃん。それに、宇都宮から来た久兵衛一家も合流していた。みな、丈吉は武器を持っていないと思い込んでいた。それが大間違い。

丈吉は左手の三本の指の爪を長く伸ばし、やすりで削って刃物のような武器にしていたのである。その爪でいきなり巳之吉の片目を切り裂き、巳之吉の長脇差を奪って、戦う。伊三郎も現れてなぜか丈吉に味方し、二人で喜十一家と久兵衛一家を殲滅した。久兵衛は死んだが、巳之吉は生きていて2作目に出てくる。

お千加から荷物と刀を受け取ると、丈吉は残りの仇を追って旅に出た。(終)



原田芳雄はフォトジェニックでほんとカッコいい。眉毛も太い。チャンバラはいい加減で、順手に持ったり逆手に持ち替えたり、「型」みたいなものは全くなくて、やりたい放題という感じだ。それでもシネスコの画が持つのは、やはり池広・宮川の技量ゆえだと思う。真ん中に人を集めて端っこがスカスカになったり、片側に人が寄ると反対側が寂しくなったり、ということがなくて、常に広がりや奥行きを感じる。こういうところは技術的には上手い。

ただシナリオは今ひとつ。サスペンスじゃなくてアクション映画なんだから、変に凝る必要はなかったと思う。全てが巳之吉の企みだった、と聞いても驚きが全くない。そんなバカな、と思うだけ。

渡辺岳夫の音楽もそうだけど、全体の演出は池広監督にしては垢抜けなくて少し野暮ったい気がする。あえて大映時代とは違った路線を狙ったのだろうか?
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