題名 :『必殺W 恨みはらします』

登録日時 :03/06/05 01:22

1987年 製作:松竹・朝日放送・京都映画 公開:松竹 監督:深作欣司  カラー 131分




南町奉行所内で事件が起きた。ひとりの与力(石橋蓮司)が町奉行を殺害し、自分も自殺してしまったのだ。 後任の町奉行、奥田右京亮(真田広之)は白塗りに化粧をし、派手な着物を着た役者のような若く妖しい男だった。

中村主水(藤田まこと)が貧乏人たちの住むおけら長屋を訪ねていると、旗本愚連隊が長屋にやってきた。突然、愚連隊の一人の馬が乗り手を振り落として暴れだし、長屋は大騒ぎとなった。馬に蹴られそうになった子供をかばった老 人(室田日出男)が首を折って死んでしまった。 主水は暴れ馬の足に手裏剣が刺さっていたことから、これは事故ではなく誰かの仕組んだことに違いないと奉行所上層部に報告したが、奥田によってそれ以上の追求は止められた。

死んだ老人の娘、お弓(斉藤絵里)は仕事人に頼んで愚連隊の幹部三人を殺してもらおうとした。しかしあまりに仕事料が安かったため、弁天の元締(岸田今日子)の募集に応じたのは主水と旅の仕事人・文七(千葉真一)の二人だけだった。二人は早い者勝ちで仕事を争うが、最初の標的を仕留めたのは文七だった。主水は新任奉行と愚連隊が繋がっていたことを知る。文七はまだ小さい息子と一緒に仕事をしていて、娘のおみつ(相楽ハル子)をなぜか遠ざけていた。

江戸城では将軍が、昔なぐさみものにした側女中、お菊(小林ひとみ)の怨霊にうなされていた。快気祈願を口実にして老中酒井(成田三樹夫)と奥田が密会していることを主水は知り、奥田の素性を探る。奥田はカゲマ(男娼)の出身で、その美貌で若衆歌舞伎の花形役者に、そして寺小姓から町奉行へと出世してきた。その節目節目では奥田の出世にとって都合の悪い人物が何人も怪死を遂げていた。奥田は「化け物」である。

主水と文七は、愚連隊の二番目の男を狙うが、その男は奥田配下の忍び・九蔵 (蟹江敬三)に殺されてしまう。久蔵はおけら長屋の住人、杉江(本田博太 郎)の小刀を殺害に使用したので、愚連隊はおけら長屋に乗り込んでくる。愚連隊と長屋住人の戦いが始まった。長屋には浪人とはいえ武士もいたので、 現場は壮絶な殺し合いとなり、お互いに何人もの死者を出した。主水が懇意に していた飲み屋の女将、おふく(倍賞美津子)はどさくさ紛れに久蔵に殺された。この一件で、リーダー(堤大二郎)始め愚連隊の生き残りはお上から切腹を強要され、抵抗して斬られた。体を売って仕事料を工面したお弓は、自害した。おけら長屋は取り壊しとなり、生き残った住人たちは追い出された。

仕事を完遂できなかった主水と文七は、「ナマクラ!」と元締めに厳しく罵ら れる。文七は真の下手人を討つと宣言し、仕事人の誇りをかけて、廃墟となったおけら長屋で久蔵と対決する。お弓の父を手にかけたのは久蔵であることを文七は見ていたのだ。千葉真一vs蟹江敬三。通常と違ってニンジャ・アクションを見せるのは蟹江のほうだ。息子・娘をも巻き込んだ戦いの末、相打ちとなって文七は死んだ。 死の間際に現れた主水に、文七は黒幕である奥田の殺害を託す。

その夜、奥田は老中酒井と会っていた。おけら長屋跡にお菊の菩提寺を建てようという奥田の提案が将軍に採用され、奥田は町奉行から側用人に取り立てられたのだ。 そこで実は自分はお菊の弟だ、と奥田が口調を変えて正体を明かす。驚愕した 酒井は盛られた毒に血を吐いて絶命する。そこに主水が姿を現し、奥田に襲い掛かるが、奥田配下の白塗りの護衛役たち 5,6名、これがなかなか強い。一人で戦う主水の分が悪くなったとき、仲間の仕事人たち、秀(三田村邦彦)、政(村上弘明)が参戦し、形勢は逆転しかけたが、外にいた酒井の配下の武士達がかけつける。そこに現れたお玉(かとうかずこ)が拳銃、順之助(ひかる一平)が手榴弾で応戦する。混乱の中、武士たちが奥の間に入ると、酒井の死体のそばに奥田がいる。驚く 武士たちに奥田が薙刀で斬りかかる。ようやく真田広之が殺陣を見せる。強い。目撃者は全て抹殺する腹づもりなのだ。遂に全ての武士を殺した奥田は主水に切りかかってくる。4,5手切り結んだところで、主水の刀が折れた。主水、絶体絶命!薙刀を振りかざして主水に迫る奥田!

そのときお玉の拳銃が火を噴いて、奥田に深手を負わせる。「そんなのありかよ?」と現代語であきれる奥田に主水が小刀で止めを刺した。

数日後、文七の住処だった川原の小屋を訪ねる主水。しかしそこにあるのは文七の墓標だけだった。川からの風が主水の袖をたなびかせる。(完)




これは傑作だと思う。 例えばキャスティング。とても豪華ではあるが、おなじみの悪役俳優、石橋蓮司、草野大吾、蟹江敬三、成田三樹夫、室田日出男などがそれぞれの演技技術 と魅力を存分に発揮していて遺憾が全くない。千葉真一、倍賞美津子、相楽ハル子、 本田博太郎、岸田今日子なども含めて、いわゆるチョイ役なぞだれもいない。 人物は多いがみんなドラマのために必要な配役で、丁寧な演出が説得力を 持って彼らのキャラを立てている。

二枚目系の真田広之、堤大二郎の悪役ぶりも、非常に光っている。 特に真田広之は、美貌の裏に狂気と屈折を秘めた怪物級の悪を演じていて、強烈だ。白塗りの効果もあってやや無表情で内面を覗かせないところが、却って この人物の奥深さを引き立てている。『陰陽師』の怪演の原点はここにある。

美術の素晴らしさは、こんな時期によくこんな予算が取れたなと目を疑うほど充実している。それを撮る撮影も見事。上からセットを俯瞰する冒険的なアングルを見せたかと思うと、うって変わって柱の位置までミリ単位で同じじゃないの?という左右シンメトリーな長回し。かと思うと照明に工夫をこらしたコントラストの コントロールとか、ほんとあらゆる撮影テクニックを効果的に網羅している。

殺陣も充実しているし、音楽(平尾昌晃)もいい。細部に目を行き届かせながら、というかむしろディテイルにこだわることで、全体の躍動感にあふれた大 きな物語世界を構築しているところが、深作監督の真骨頂。ハード・ボイルド のタッチは工藤栄一監督と共通しつつも、ハデな極彩色の画が一線を画す。

あえて粗探しをすると、「命」の重さがドラマ中で均一でないという点だろうか。一言残してドラマチックに死んでいく倍賞美津子や千葉真一や堤大二郎や成田三樹夫のようなA群に較べると、あまりにあっけなく死んでいくB群の人たちが多勢いる。実はB群のように不本意かつ不条理に死なねばならなかった人たちの無念を汲み取ろうというのが深作作品に共通したメッセージだと思うのだが、これはうまく描けていないように思う。
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